過料決定取り消し後の若干の事実経過報告

過料決定取消後の若干の事実経過報告

 

8月19日付けで、過料決定の取消があったことは前回ブログ「やりました。過料決定取消。全面勝利」(2020.8.20)で報告しましたが、その後、裁判所の担当書記官、資料閲覧、担当登記官との応答がありました。取りあえず、コメント抜きで事実経過を報告します。(文責 筆者)

 

1.裁判所担当書記官に対する質問と回答 (2020.8.21)

 

質問1.本件決定は、2年以内の社員総会で適正に選任されていれば、いわゆる「重任登記」は必要ない、ということで解釈してよろしいか。その場合、法務省(法務局)も同様の見解か。

 

回答⇒本件決定は「重任登記」の当否は判断していない。決定理由書に書いてあるとおり、役員選任について懈怠がなかったので、不処罰としただけである。本件異議申立の認容に関する決定通知書の写しは、さいたま地方検察庁越谷支部に送付してある。さいたま地方法務局には検察庁から連絡していると思うが、本件に関し、さいたま地方法務局が直接意見を述べていないし、意見も聴いていない。あくまでも検察官との対応である。

  当裁判所からは、さいたま地方法務局(登記官)に結果の連絡はしていない。連絡するシステムとなっていない。

  従って、法務局がどのような見解を持っているか分からない。

 

質問2.決定理由の2に「社員総会において同人について理事再任の手続が行われたことが認められ、本件の役員選任義務懈怠の事実は認められない。」と記載されているが、これはいわゆる重任登記をしなかったとしても違法ではない。というか社員総会で再任の選任手続が滞りなく行われれば、あえてその旨の登記(重任登記)は必要ない、ということを意味しているのではないか。

 

回答⇒直接には重任登記が必要か否かを決定は述べていないが、結論としてというか結果としてそういうことであると判断できると思う。役員変更の登記がなされていなくても法人が解散するまでの間、有効に理事の再任が認められた、ということを言っている。

 

質問3.もし社員総会等で2年を超えたとか仮に役員選任に懈怠があったとき、一般社団法人に関する法律第149条第1項項に違反し、過料処分となるのか?

  つまり私の異議申立で主張した第149条第1項は登記を命じた条文でもないし、第342条の過料に処すべき行為にも該当していない、についてであるが、選任懈怠があればこの条項で過料請求をするのか、それとも別の条文で過料請求するのか?

 

回答⇒法律の判断は裁判官がするのでお答えできない。しかし仮に役員選任に懈怠があった、欠員が生じていたというなら、私としては第149条が第342条を受けていないと思われるので別な条文で過料請求すると思うが、裁判官でもなく登記官でもなく、仮定の話では答えられない。社員総会が有効に成立していない場合はどうなるか、実際に事件として扱うときに判断されると思う。

 

質問4.過去にも同様の過料決定の通知をしていたのではないか。

 

回答⇒確かに同種の過料決定はあったが、私の記憶ではこれまで異議申立はなかったと思う。

 

質問5.商業登記規則 の第118条(過料事件の通知)では「登記官は、過料に処せられるべき者があることを職務上知つたときは、遅滞なくその事件を管轄地方裁判所に通知しなければならない。」とある。この規定に基づいて、過料請求があったのか。そのとき一般社団法人に関する法律第149条第1項違反と記載されていたのか。

 

回答⇒登記官から過料に該当する者を発見したとの通知があった。そこには第149条第1項と、違反事項の要旨として「選任懈怠」との記載があったと思う。

 

質問6.検察官の意見を聴いたとあるが、検察官はどのようなことを述べていたのか。反論の内容を教えてもらいたい。

 

回答⇒担当検事の名前は言えないが、このような事件の場合「然るべく」という意見だったと思う。

 

質問7.裁判所としてこの事件を実際はどのように受け止めていたのか?

 

回答⇒ 担当の裁判官が行政事件担当ではなく一般の民事事件担当であったため、一般民事事件が多数あり、コロナ禍もあり、滞ってしまい5ヶ月も係ってしまった。お詫びする。しかしそんな中で裁判官は一生懸命勉強してこの結論に至った。当然上司の決裁というか了解を得ている。

 

質問8非訟事件手続法の第32条(記録の閲覧等)には「当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、非訟事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は非訟事件に関する事項の証明書の交付(第百十二条において「記録の閲覧等」という。)を請求することができる。」と規定している。検察官の意見も含めすべて開示して頂けるか?

 

回答⇒よろしいです。印鑑を持参して下さい。

 

 

2.非訴事件訴訟規則第32条による関係書類閲覧

2020年8月24日14時30分頃 記録の閲覧及びスマホによる撮影を行う

 

改めて判明したこと

 

① 本件は令和1年12月17日付けで、さいたま地方法務局登記官Hの名前で発出されている。

   内容は、「過料に処せらるべき事件を発見したので、商業登記規則第118条の法令の規定により通知します。」「一般社団法人法に関する法律第149条第1項」「選任懈怠」法人登記謄本の内容、法人名、法人代表者名

 

 ② 令和2年8月11日に裁判所のT裁判官から「本件について検察官の意見を求める。」との「求意見書」と私の異議申立書(A4、4頁)、審尋書の意見書(A4、16頁)、その他登記簿謄本(A4、6枚)、社員総会議事録(A4、7枚)、その他関係資料等(いずれも写し)、が発出されている。

  翌8月12日、さいたま地方検察庁越谷支部検察官検事Nより、意見「然るべく」に◯印が付けられての回答があった。

 

 (注)検察官の使用する「然るべく」は、「裁判官の判断に従います。判断は裁判所にお任せします。」の意である。

 

 

3.登記官に対する質問

  2020年8月26日16時35分頃、さいたま地方法務局H登記官に電話する。

 

質問1.令和1年12月17日付け日記(過料)第1948号について、過料処分取り消しの決定がさいたま地方裁判所越谷支部で8月19日に行われたが、そのことを知っているか。

 

回答⇒休眠法人整理作業の件だと思いますが、こちらは商業登記規則118条に基づき、過料処分の事案を当該裁判所に通知するだけで、処分結果をもらうことはしていない。知らなくても問題ない。

 

質問2.この通知書には過料に処すべき事件として、一般社団法人法第149条を指摘しているが、過料処分とすべき同法第342条には第149条第1項は規定されていない。法律のプロが適用条文を誤ったのか。

 

回答⇒しばし時間を下さい。改めて調べた上、回答します。

 

質問3.このような過料の通知は、第149条第1項の「事業を廃止していない旨の届出」を行った者のうち、その後登記を行っていない全ての者に対して、それぞれ地方裁判所に通知しているのか。その根拠は何か。条文上は「廃止していない旨の届出をしない場合は2ヶ月で解散した者とみなす。」とだけ規定しており、届出をした者に対する処分等は規定されていないが、登記せよとの規定があるのか?

 

回答⇒あわせて調べた上回答する。

 

 

4.2020年8月27日 10時20分頃 さいたま地方法務局 O登記官より電話

 

 O登記官 一般社団法人法第149条第1項が同法第342条に基づかないというご意見でしたが、第149条第1項には登記が最後にあった日から5年間経過した者は休眠一般法人とみなします。つまり同条は5年に1回の登記を求めています。この登記がなされていないということで、役員の選任が懈怠としている判断し、変更登記を行っていなかったということで過料に処せらるべき者があったとして地方裁判所に通知したものです。

 

  以下、質問は私、回答はO登記官。

 

質問1⇒まず基本的なことですが同法第342条の過料に処すべき行為に、第149条第1項が記載されていませんが、それを認めますか?

 

 回答⇒条文上は確かに第342条には第149条は記載されていませんが、私どもとしては役員の任期が法律上2年なのでこれを過ぎると、解任されたものとみなして、役員変更の登記をしないまま5年以上経過している、役員不在ということを問題にしたのです。

 

質問2⇒第149条の登記が最後にあった日から5年という、ここにいう登記とは何ですか?

 

 回答⇒今申しましたが、役員の任期が2年で切れているので、あらためて選任の登記をして欲しいという旨の登記です。

 

質問3⇒社員総会で正当に再任され任期が延長されたとしてもその旨の登記が必要だと言うことですか?それはいわゆる重任登記が必要だということですね。

 

 回答⇒そうです。役員の任期が2年と定められていますから、社員総会で再任されても法的には任期満了。解任という取扱いになっています。

 

質問4⇒今回の裁判所の決定では、その重任登記をしなくても2年以内に開催される社員総会の終結前に任期の延長を行えば、役員選任の懈怠は生じないと判断しています。言い換えれば、いちいち重任登記はする必要はない、と言っているのです。そもそも役員の任期は2年とどこに規定しているのですか?

 

 回答⇒同法第66条です。裁判所が重任登記は必要ないという判断をしたのですか?

 

質問5厚労省では役所が訴えられたり、役所が訴えたりするとき、訟務官を選任して対応しています。法務局の場合は訟務官のかわりに検察官が訴訟行為を対応します。その

 検察官が「然るべく」という意見を裁判官に述べています。裁判所だけで亡く法務局を代理する検察官もそのように判断しています。裁判の結果は知らないのですか?

 

 回答⇒知りません。通知するだけで結果を報告してもらうシステムにはなっていません。

 

質問6⇒話しは戻りますが、第66条では確かに見出しには(理事の任期)とありますが、なかみは、任期は選任後2年以内に終了する社員総会の終結の時までとする、とあります。社員総会終結前にさらに2年延長すると決議したら、同法第35条により社員総会は一切の事項をについて決議できるので問題はないと私は考えます。また第66条では役員の再任を禁ずる旨の規定もありません。裁判所も2年以内ごとに開催される社員総会で社員総会の終了前に再度選任すればそれで法的には有効として、私の意見を支持しました。登記官の訴訟代理人である検察官も、「然るべく」という意見を述べているので、法務省もこの考え方に同意したと判断されます。役員の任期は2年ではなく、2年以内に開催される社員総会終結時までとしか記載されていません。第66条をしっかりと読んで下さい。

 

 回答⇒持ち帰って検討させて頂きます。先ほど申したとおり、過料請求の通知に対して、回答を求めることは制度上していません。

 

質問7労働基準監督署では労働基準監督官が書類送検すると、起訴か不起訴か、起訴の場合は有罪か否か、量刑はどうなったのか、を検察庁に照会するよう内部通達で定められています。不利益処分である過料処分の通知行って「それで終わり、後は知らない」、では、あまりにも上から目線ではありませんか。国民に対して不利益な処分を科そうとしているのですから最後まで結末は把握すべきです。

  ところで、裁判所は社員総会で法定どおり選任され続けるなら、役員選任について懈怠があったとは認められない、という判断をしました。繰り返しますが再任の都度登記は必要ない、といっているのです。今回の休眠法人整理作業で私と同様たくさんの中小零細企業に過料請求がなされ3万円が徴収されています。私だけが救済されるというのは、憲法第14条の法の下の平等に照らして問題です。法務省としてこの件に関し謝罪し3万円の過料について、利息を含めて返却すべきではありませんか。

  また、重任登記について「今後は必要ない」ということを国民にあきらかにすべきではありませんか。

 

 回答⇒まず裁判資料を手に入れてから、内部で検討の上お答えします。

 

質問8⇒この件は、全法務労働組合本部にも行政民主化運動でとりあげるべきではないかと提案しました。現在のところまだ回答はありません。それから第149条で「事業を廃止していない旨」の届出をした場合のその後の法律的効果、措置すべき事項が条文上記載されていません。またどうしても重任登記をさせたいなら第301条の登記すべき事項にその旨の記載をするとか、登記事項について例えば商業登記は10年、不動産登記は50年とするなど有効期間を設けるとか、法改正を考えてみませんか?私のブログでいろいろ提案しています。

 

 回答⇒いずれも持ち帰って検討させて頂きます。

 

2020.8.27  白﨑淳一郎のBlog

やりました。過料決定取り消し。全面勝利です。

      やりました。過料決定取り消し。全面勝利です!

 

 

 2020年3月11日に過料決定に対する異議申立を行っていましたが、8月19日付けで「過料処分の取り消し。処罰しない。本件手続費用は国庫の負担とする、旨の決定」を裁判所からいただきました。全面勝訴です。しかもそこには「当裁判所は、申立人の陳述及び検察官の意見を聴いた上、つぎのとおり決定する。」として、検察行政=法務行政の意見も聴いているとしています。

  少し長いですが、「理由」をそのまま転記します。

 

「1.原決定は、一般社団法人白﨑労務安全メンタル管理センター(以下「本件法人」という。)の代表理事であった申立人が、同法人の役員退任後、その選任を令和元年12月10日までに怠ったことを理由として、令和2年2月26日、申立人を過料3万円に処したものであるところ、申立人はこれを不服として本件異議を申し立てた。

2.一件記録及び審尋の全趣旨によれば、申立人は、平成24年4月12日の本件法人設立時に本件法人の理事及び代表理事に就任したが、その後、理事の任期満了前に、社員総会において同人について理事再任の手続が行われたことが認められ、本件の役員選任義務懈怠の事実は認められない。したがって、本件について、申立人を不処罰とするのが相当である。

3.よって、原決定を取り消して申立人を処罰しないとするのが相当であるから、非訴事件手続法120条、122条により、主文のとおり決定する。」

 

  なんともうれしい決定です。あらためてイェーリングの「権利のための闘争」を思い出します。同書では、 「権利が侵害されたとき、自分の権利を主張するのもしないのも自由だ、とみんなが思っているようだけど、それは違う。 自分の権利を主張し、権利を守っていくの我々の義務だ。

人が権利のために闘わなければ、法は存在価値を失う。働かない者にはパンが与えられないのと同様に、権利の侵害に対して闘わない者には、法は権利を保障しない。権利は主張してはじめて権利となる。」というような内容でしたね。

 

 実は、今回の異議申立に当たって、弁護士も含め、いろいろな人に相談しました。しかしそのほとんどの人が、いくら社員総会等で正式に再任してもその旨の登記(重任登記)をしない限り選任は効力がない。役員の任期は法律で2年と期間がありそれを超えてはならない。重任登記は長い間の慣習でありそれに反することは法務局は許さないだろう。だから法務局や検察庁を相手にケンカをしても無駄だ、やめておけ、というものが圧倒的でした。

 

 本件の処分の取り消しまでまる5ヶ月かかりました。法務局だけでなく多くの法人や司法書士等にかかわる重大事件だからこそ、それこそ法務省本省も巻き込んでの苦渋の決定だったらこそ長期間かかったものと思われます。

 

  今回の、法務行政が行った「見なし休眠法人」でないと届出した者に対する、過料処分は休眠法人整理作業が平成26年から継続的に行われてきたので7年間行われています。

 その間、多数の見なし休眠法人とされた企業はおびただしい数です。ちなみに法務局のホームページによれば、解散したものとみなされる休眠法人の数は表のとおりです。そして本件のとおり、「まだ休眠していない」旨の届出をした法人は、この数の数倍はあるかと思います。そして「重任登記」をしないと、重任登記をしていないということではなく(その旨の条文がないため)、過料処分の対象条文となってもいない「見なし休眠法人」の規定を使って、過料処分で脅かし2年以内毎の重任登記の実施を促しているのです。

 

 法務省は今すぐ、ホームページにある、「まだ事業を廃止していない休眠会社又は休眠一般法人は,公告から2か月以内に役員変更等の登記をしない場合には,「まだ事業を廃止していない」旨の届出をする必要があります。(中略)なお,「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても,必要な登記申請を行わない限り,翌年も「休眠会社・休眠一般法人の整理作業」の対象となりますので御注意ください。」の文言を削除するとともに、今回のこの決定を法務行政は真摯に受け止め、登記の有効期間を定めるとか、みなし休眠法人に対して、事業を廃止していない旨の通知をした場合のその後の処理方法(手続)を明確にするとか、株主総会あるいは社員総会で民主的に再任された場合は重任登記は必要ないとか等の法令等の改正を行うとともに、すでに過料を納めてしまった法人(の代表者)に対して、なんらかの救済(返済)措置を行うべきだと思います。金銭的な救済が仮に難しいとしても過料処分についての謝罪があってしかるべきだと私は思います。

 

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 私が今回異議申立てをした本当の理由は、正常に社員総会や株主総会が行われ役員の再任が行われた場合には、法的に「重任登記」は必要ではないということでした。今回の取り消し決定の理由にはその旨については明確に述べられていませんが、私が異議申立で主張したのはまさにそのことでした。

 これまでの経緯については、2020.3.8「3万円支払えという突然の過料決定にビックリ」、2020.4.18「重任登記に反論する」という白﨑淳一郎のblogに記載しています。興味のある方是非ご覧下さい。

 

 なお、一連の異議申立について、さらに興味がある方は、関係資料を差し上げますので、メールでご連絡ください。メール添付資料として送ります。但し、かなりのボリュームです。法曹関係者か法曹を目指す学生には参考になるものと思います。

 

Eメール jshiro52@js5.so-net.ne.jp です。

 

ひそかにご声援して頂いた方には、心から御礼申し上げます。

 

コロナに十分気を付けてください。

 

 2020年8月20日   白﨑淳一郎のblog

SDGsで樽生ビールはがまんします

本当は飲み屋で樽生ビールが飲みたいけれど

 

 本日(2020.8.11)は今年最高の猛暑だそうで、越谷も38℃を超えそうです。コロナ禍で出歩くこともできず、飲み屋での樽生ビールが恋しいです。そしたら、キリンビールが「Home Tap」という樽生ではなくペットボトル生を発売し、自宅で本格的な生ビールが飲めるとのこと。ビール好きにはたまらなく嬉しいニュースだと思いました。

 実は、昨日、孫も自宅軟禁状態なので、誕生日のプレゼントにかき氷機が欲しいというので電気店を見て回ったのですが、売り切れが続出してい手に入れるのに苦労しました。それはとは異なりどの店にもホームビールサーバーが販売されていて、こちらの方にも手を出しそうになりました。

 

 さて、キリンビールのHome Tapも電気店の簡易自宅ビールサーバーも、二酸化炭素炭酸ガス)カートリッジやミニボンベを使用しているのをご承知でしょうか。飲食店の生ビールの場合はカートリッジではなく二酸化炭素ボンベで大きさはいろいろありますが2.5㎏(3.35リットル)~30㎏(40リットル)ぐらいのものを使用しているそうです。リットルと書いてあるとおり液体の二酸化炭素です。これらを減圧調整弁(バルブ)で減圧し生樽や生ペットボトルに引き込み、二酸化炭素の気化する圧力で生ビールをサーバーに押しだし最後にタップでクリーミーな泡を立てると生ビールができあがります。サーバーには電気的にビールを冷やす装置がついています(古いタイプは氷を入れて冷やします。)

 要するに、瓶ビールや缶ビールの泡はビール本体から麦芽等が発酵した際に発生する二酸化炭素によるものだけですが、サーバーを利用した生ビールはそれ以外に二酸化炭素をビールを容器から取り出すためにだけでなく、クリーミーな泡を立てるためにも使用しているのです。

 

 そして問題なのは、使用後の樽生の容器内あるいはペットボトル内には圧力のかかった二酸化炭素が残っています。 例えばキリンのホームトップの場合1リットルのペットボトルですがペットボトルの容器の温度が室温の28℃程度でしたら適正圧力は2.8~3.3気圧程度でしょう。つまり、ペットボトルの中には少なくとも3.8~4.3リットルの二酸化炭素が残っています。20リットルの樽容器でしたら20×4.3=80.6リットル近くの二酸化炭素が残っているわけです。

 問題はこの空容器です。ペットボトルは家庭の他のペットボトルと同じように処理されます。お店の樽容器はビールの製造メーカーに回収されますが、この空樽は洗浄されて再び生ビールを充塡されますが、樽を洗浄する際に約80リットルの二酸化炭素は現段階では回収されずそのまま空気中に放散されています。

 

 これは地球温暖化防止対策上見逃せない事態だと思います。

 

 で生ビール好きの私は、考えました。二酸化炭素の替わりに窒素を使用できないかと。各ビール会社に問い合わせをしました。「確かに窒素は不活性ガスで二酸化炭素に比べ水やアルコールには溶けにくい。しかし、タップで泡立てるときビールがまずくなる。味が落ちる。これが致命傷である。」ということと、「窒素ガスを液体にする場合-210℃なのに比べ二酸化炭素は56.6℃と液化するのにエネルギーを要する。また容器も圧力が高いため二酸化炭素に比べ堅牢な構造にしなくてはならない。そのため窒素混合ガスを使用しているお店でも液体窒素ではなく気体の窒素ガスボンベを使用している。」等々の返事がなされ、現状は窒素ガス使用には変更できないというのがキリン、サントリー、アサヒ、サッポロ各社の答えでした。

 

 そこで私は考え提案します。

 

 まず樽生の場合、容器をシリンダー式にします。簡単に言えば注射器の大きなものをイメージしてください。薬剤にあたるのが生ビールです。その外側に窒素ガスを注入し生ビールを押し出します。実際は窒素ガスでなくても良いのです。タップに連動して機械的に樽内のビールを押し出すことができれば良いのです。問題はサーバーです。特に泡を立てるタップ部分に二酸化炭素がどうしても必要ならその部分にだけ二酸化炭素を供給する構造にすれば良いのです。それだけで二酸化炭素の使用量はかなり抑えられます。キリンのホームタップの場合は二酸化炭素による押し出し方式にするのではなく、重力を使った自然抽出にし泡立てはサントリーが缶ビール用に開発した特殊泡立てタップ方式にすれば、二酸化炭素を使用しなくてもよいものと思われます。但し、ビールを注ぐときに必ず空気が入り込みます。ですので、吸入される空気をビールの中に通さず管を通してビールの上部にクレラップのようなシートでシールドすればその空間にだけ空気が貯まりますのでビールの酸化は防げると思われます。

容器代が単なるペットボトルでなくなるので費用は嵩みますが、アルミ容器等で制作し使用後回収、リサイクルできるようにすることが、海洋マイクロプラスチック問題にも対応できるものと思います。

 

 日経新聞の報道では1~6月のビール計飲料販売は、飲食業の休業で前年比1割減(2020.7.13)、ビール大手4社のビール系飲料販売、5月は13%減(2020.6.10)と新型コロナの影響を報道しています。ビール会社にも飲食店様にもまことに気の毒でしたが、おかげでおそらく大量の二酸化炭素の放出が免れたのではないでしょうか。全世界でのビール総消費量は2017年に比べ18年は約154万キロリットル増の、約1億8,879万キロリットルだったそうです。すべてが樽ではないとしても、2気圧以上に加圧された3億キロリットル以上の二酸化炭素が空気中に放出されています。今年はコロナで全世界で飲食の自粛です。地球にとって幸いだったのかもしれません。

 SDGsの観点から、これからのビール業界の発展のため二酸化炭素の使用を押さえ、酎ハイなどの炭酸飲料についても、二酸化炭素の代替措置として窒素ガスを発泡させ、どう安全に、おいしく飲用できるか、研究の余地は十分あると思います。

 

 ということで、今日は本当に暑いのでビールではなくホッピー+焼酎とプランターで育てた枝豆で暑気払いをしたいと思います。なおホッピーは炭酸飲料ですが人工の炭酸ではなくホップを発酵させた自然なものなので、地球温暖化には理論的には寄与しないと考えています。

 

2020.8.11 白﨑淳一郎のBlog

トリチウム処理水のパブリックコメントに意見を提出しました

 

経産省 資源エネルギー庁 廃炉・汚染水対策チームが2020年6月15日までに、ALPUS処理水の取扱いに係るパブリックコメントを求めているので、2020年5月19日、「希釈ではなく濃縮するという発想の転換を」という意見書をメールで行いました。おそらく今回のパブリックコメントが国民の最後の意見を述べる場となりそうです。以下意見書の内容です。

 

「希釈ではなく濃縮するという発想の転換を」

 

 小委員会報告書もTEPCO処分案のいずれも、ALPS処理水を希釈して海中投棄あるいは水蒸気放出等の処分を考えている。しかしどんなに希釈してもトリチウムの絶対量は変わらない。このまま投棄すれば必ずや風評被害が起こり、反日種族主義の韓国から国際的な非難、揶揄を浴びせられるであろう。むしろ発想を転換して、希釈ではなく濃縮することを考えたらどうか。

 いうまでもなく、通常の水(軽水H2O)を電気分解しても電気分解しきれない水が残る。これが重水(D2O)である。この重水は核分裂の減速材としても利用されている。減速の過程で核分裂による中性子により重水は三重水(トリチウム水T2O)に変化する。これは日本の軽水を使用した軽水炉でも、メルトダウンしたデブリによってもトリチウムは発生する。そしていくら電気分解しても重水(T2O)やトリチウム水(T2O)は電気分解できない。

 では、現在ALPS処理水に含まれている重水やトリチウム水の絶対量はどれくらいであろうか。重水の量は発表されていないが、2020年3月12日現在、トリチウム総量は約860兆ベクレル、純トリチウム水換算では約16グラムと試算され発表されている。これは979基ある119万㎥というタンクの総量に比べて限りなく少ない量である。言い換えればタンク内のALPS処理水の大部分(99%)は軽水(H2O)であるということを意味している。

 この大部分の軽水を電気分解し水素と酸素に分離除去し、電気分解しない重水とトリチウム水を残すのである。要するにALPS処理水を希釈ではなく濃縮するのである。電気分解するにはどの程度の電力や時間を必要とするか、溶解液として5%水酸化ナトリウムが良いのか10%炭酸ナトリウムが良いのかあるいはそれ以外の物質が良いのか、電極として白金が良いのか、塩素の発生も考えられるのでこれらの処理方法等の実証実験をする必要があるが、同時に水素社会を目指す取組として液体水素化、液体酸素化や水素とトルエンの化学反応によるメチルシクロヘキサン(MCH)生成などとセットで考察する必要がある。

 また電気分解を効率的に行うには、軽水の量が一定程度分解されると電気分解の処理能力が遅くなるので、これら処理能力の劣った水を遠心分離してさらに軽水部分だけを取り出し、再電気分解する等のことも考えなければならないであろう。

 そして電気分解されなかった濃縮された重水(D2O)とトリチウム水(T2O)の絶対量は重水の量が不明だとしても、どう見積もっても現在の969基の1割以下となるはずである(というよりも1割以下になるまで電気分解と遠心分離を繰り返すのである)。

電気分解と液体水素化、液体酸素化、MCH化を行うには相当の電圧と電流が必要である。が、2019年11月から開始された固定価格買取制度(FIT)の廃止を止め、全量を廃止前の価格で新たに国(電力会社も相応の負担を行って)が税金で買い上げて使用するとか、原子力発電の再稼働の条件として全国の原発から一定量の電力を供給する等の体制を組めば解決すると思われる。

 もう一つこの濃縮されたD2O・T2O水は中性子に対しては化学的に非常に安定していることである。つまり現在使用済み核燃料や高濃度核汚染廃棄物質は硬化ガラス等に封入して地下等に貯蔵している国もあるが、その容器にこのD2O・T2O水を混入することで中性子等によるガラス容器の劣化を遅らせることが可能だと思われる。いずれにしろこの濃縮されたD2O・T2O汚染水は絶対量が少なくなるため保管方法もそれほど難しくない。

 私は、保管も一つの方法であるが、この濃縮D2O・T2O水に使用済み核燃料や高度核汚染物質、あるいは廃炉作業で出てくる高濃度汚染物質やデブリ等を混ぜて、例えばH2Aロケットに積み込み太陽に向けて打ち上げることを提案したい。太陽は水爆の核分裂をしている星である。地球上の各国で発生した核汚染物質を全て投棄してもほとんど問題はないと思われる。打ち上げる技術と費用は片道であり途中で太陽の引力を使用するのでそれほど難しくないし費用も膨大とはならないと思われる(小委員会報告書では海洋投棄で34億円、空中投棄で1千億円との試算があるがあまり信用できない。)。

むしろ核汚染物質やD2O・T2O水の廃棄処理業務を国際的に請け負うことで新たなビジネスチャンスともなり得る。また電気分解で生成した 水素と酸素はロケットエンジンの燃料とすることもできる。

 少なくとも、核汚染廃棄物質の最終処分場、核汚染廃棄物保管場所探しに苦慮するくらいなら、ロケットによる太陽への投棄は非常に現実的であり安全でありかつ費用もそれ程膨大ではないと考えられる。

 なお、私は原発の再稼働には必ずしも賛成ではないが、もし稼働させるなら一定の電力をこのALPS処理水の濃縮の電気分解等のために使用することと、温排水を使用した二酸化炭素の抽出・回収を再稼働の条件の一つに加えて頂きたいと考えている。(詳細は2020.1.4、2.16の「温排水の利用で地球温暖化対策を」と2020.1.8「福島第1原発トリチウム汚染水は太陽に送れ」等の白﨑淳一郎のBLOGを参照のこと。)

 最後に、私は必ずしも電気分解だけが唯一の濃縮方法ではないとも考えている。問題は希釈するより濃縮し絶対量を少なくする方が貯蔵や保管等の取扱いが容易になるということを言いたいのである。従って、濃縮できない理由を考えるのではなく、どうしたら濃縮できるのかを探ることに努力を傾注すべきと考える。

 言うまでもなく濃縮されたD2O・T2O水には大量の重水(D2O)が含まれていると考えられる。この重水は将来の新しいエネルギー技術である常温での核融合炉の燃料としても注目されている。核融合炉の是非も含めて取りあえず希釈による投棄は再考すべきではなかろうか。

 

2020.5.20  白﨑淳一郎のblog

重任登記に異議あり

      今度は「審尋」を行うから、意見があれば述べよ、との連絡が

 

 

 前回(2020.3.8)「3万円支払え。過料の決定通知にビックリ」というブログを書きましたが、そのブログではこの過料決定に対して「異議申立」を行う予定です、と記載しました。

 異議申立は3月11日に行い、無事受理されました。そのとき私は、こういう異議申立はしっかりと審査されるのですかと聞いたところ、受け付けた事務官の人が、異議申立は受理されても、この種の事案は多くの場合は申立が却下(訴えの内容を審査せず門前払いすること)されることが多いようですよ、と話していました。

「審尋」の通知が来て、門前払いをされなくてホッとしました。

 

 

1.審尋するから意見書の提出を求められた

 

 そもそも、この過料決定の発端となったのは、平成26年から始まった法務行政の「休眠法人整理作業」大作戦だと思われます。株式会社は12年間で休眠法人となります。一般社団法人の場合は5年です。これら休眠法人をリストアップし、登記官が裁判所に過料案件として通知するそうです。裁判所は非訴事件として当事者の意見を聴かずに、過料についての決定をすることができます。

 しかし過料の決定に不服がある場合は異議申立をすることができます。異議申立があれば、遡って過料はその効力を失います。また適法な異議申立てがあったときは、裁判官は当事者の陳述を聴いて、更に過料についての裁判を行わなければならないとされています。この裁判は裁判官の面前で行うのではなく(公開の法廷は開かれません)、当事者の意見を書面だけで審査します。これを審尋といいます。

 裁判所から、審尋書が送付され、異議申立書にプラスして意見や証拠等があれば4月13日までに「意見書」として提出することが求められました。私の行った異議申立は適法なものだったわけです。

 いよいよ、非公開ですが本格的な裁判が始まります。コロナウイルス禍もあり、暇をもてあましている老人(誠にすみません)にとって、これほど楽しい「頭の体操」はないと思っています。久しぶりに法学部の学生に戻った(若返った)気がします。

 なお、4月13日に、A4で16枚の「意見書」を提出し、これも無事受け取ってもらいました。

 

 

2.休眠法人制度とはなにか

 

 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法律」という。)第149条に、登記が最後にあった日から5年経過したものを休眠社団法人と定義し、法務大臣が当該法人に対して2箇月以内に登記所に事業を廃止していない旨を届出をしない場合は、当該法人を解散したものとみなしその旨を公告する、という制度です。

 この制度は、5年間も変更登記をしていないことは「登記懈怠」として許されない、ということで「過料」にすべしと登記官が裁判所に通知しているのだそうです。

 確かに、本当に(実際に)休眠した法人の場合は、ネットで調べると分かりますが「休眠法人の売買」あるいは「休眠法人の乗っ取り」などが行われ、詐欺等の不正行為の温床ともなるので、法務行政としては避けたい、という気持は分からないでもありません。私もある意味では必要な制度だと思います。

 

 

3.「法律」第149条は条文としての立て付けが悪い

 

 休眠法人とみなされて解散させられるのを避けるには、前述のとおり、「休眠法人でない旨」の「届出」を、通知があって2箇月以内に法務局に行わなければなりません。ここで重要なことは「登記」ではなく「届出」となっていることに注意すべきなのです。

 しかも、この「届出」をすれば、何年間「休眠法人でない」という効果が存続するのか、は規定上明記されていません。

 もし2箇月以内に「届出」をしないと、法務大臣により解散のしたものとみなされ、法人解散の公告がなされます。同条には、ただし書きで、「一般社団法人に関する登記」がなされたときは、この解散の公告はこの限りでない、つまり解散の公告はなかったものとして取り扱う、と規定しています。

 このただし書きに記載されている「一般社団法人に関する登記」というものが条文を読むだけではどういうものか全く分かりませんが、過料の通知が来てからいろいろ調べたら、いわゆる「重任登記」のことらしい、ということが分かりました。

 つまり「一般社団法人に関する登記」=「重任登記」をすれば、休眠法人ではなくなるので、解散は免れる、という規定となっています。しかし、ただし書きは登記した場合は解散を免れるとだけ規定しているので、登記する義務を命じてはいません。あくまでも解散が嫌と考える側がするものであり、国から強制されて行うものではありません。

 義務規定ではないので、この「一般社団法人に関する登記」をしなくても、過料という処罰は受ける筋合いのものではありません。勿論、過料の根拠規定にこの休眠による見なし解散の規定は記載されていません。見なし解散するのは法務大臣ですから当然ですよね。

 また、「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしなくても条文上は「届出」があれば、解散を命じることはできません。登記官としては、本当は「届出」ではなく「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしてもらいたいのですが、法文上それを求める規定とはなっていないのです。

 でも、どうやら登記官はこの「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしないことに腹を立てて、無理筋の過料の請求を行った模様です。お上意識、丸出しですね。

 

 

4.「届出」の通知書の内容(法務省HPのリーフレットより)

 

 もう少し、休眠していない旨の「届出」の流れを説明します。1に記載している「休眠法人整理」大作戦では、登記官は「法律」第149条第1項の「届出」と同項に基づく「法律」施行規則第57条に記載している「通知書」を、登記手続を5年以上行っていない休眠法人に郵送します。

 

 通知書の内容は法務省のホームページで見ることができますが、次のような内容です。

 

 『まだ事業者を廃止していない」旨の届出について』

  まだ事業を廃止していない休眠会社又は休眠一般法人は、公告から2箇月以内に

  役員変更等の登記をしない場合は、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をす 

 る必要があります。

  届出は、登記所からの通知書を利用して、所定の事項を記載し、登記所に郵送又は

  持参して下さい。

  通知書を利用しない場合には、書面に次の事項を記載し、登記所に提出済みの代表

  者印を押印して、提出して下さい。

  また、代理人によって届出をするときは、委任状を添付して下さい。

  なお、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても、必要な登記

  申請を行わない限り、翌年も休眠会社・休眠一般法人の整理作業」の対象となり

  ますの御注意下さい。

 

        【届出書に記載すべき事項】

会社法施行規則第139条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則第57条又は第65条))

(1)商号、本店並びに代表者の氏名及び住所(休眠会社の場合)

  名称、主たる事務所並びに代表者の氏名及び住所(休眠一般法人の場合)

(2)代理人によって届出をするときは、その氏名及び住所

(3)まだ事業を廃止していない旨

(4)届出の年月日

(5)登記所の表示

※ 不備があると、適式な届出として認められないことがありますので、正確に記載して下さい。

(アンダーラインは筆者)

 

 以上のような通知書が、一昨年と昨年に送られてきたと思いますが、コピーをしないまま返送してしまったので正確な記載内容は覚えていません。が、おそらくこのような内容でした。

 

 毎年確実に税務署、県税事務所、市役所に貸借対称表や損益計算書等を添付して法人税を納め、代表理事等の変更もなく(私のところでは毎年5月にリビングで定時社員総会を行って任期の延長を行っていた)、多少赤字傾向でも何とか正常に事業を継続してきた事業者にとって、突然この通知書を受け取ったとき、どう思うでしょうか。

 事業を廃止していませんか?と急に言われたのですから、一にも二にも無く、この「事業を廃止していない旨の届出」を出すと思いませんか。届出をしたときには、これで一安心、と思うのが普通です。

 

 通知文の「なお書き」に「必要な登記申請」を行わない限り、翌年もまたこの通知書が来るとの記載がありますが、ここに記載されている「必要な登記申請」というものが具体的に示されていないので何のことを言っているか分からない、自社には関係ないとしてスルーしてしまうのではと思います。

 私も、私の会社(法人)の登記事項に変更はありませんでしたので、このなお書きについては気にも留めていませんでした。

 

 

5.通知書の問題点

 

 通知書は「法律」施行規則第57条によるものとしていますが、通知文の「なお書き」のアンダーラインの部分は同条には一切記載がありません。何を根拠にこのなお書きが記載されているか分かりません。出所不詳の文書なのですが、重要なことは翌年も「休眠法人整理」の対象となる、と記載しているだけで、何時までに「必要な登記申請」をしなさい、とか登記しなければ処罰(過料)の対象となる、とは記載していないということです。でも実際には2回目の「届出」を行った後に過料処分の通知がなされたのです。

 

 このことに関して、「法律」第149条には、届出をしても翌年又届出をしなければならない旨の規定がないということです。言い換えれば届出の有効期間が規定されていません。だから、届出をしさえすれば、法務大臣の見なし解散の公告の執行は停止されることは分かりますが、どれくらいその効力があるのか、法文上は分かりません。

 「休眠法人整理」大作戦は、真に休眠している法人を法務大臣の権限で解散にする制度です。休眠していなければ整理する必要はありません。だから「届出」で休眠していないか、しているかを確認し、真に休眠している法人を粛々と整理していけば所期(整理)の目的は果たせます。

 「整理」大作戦の趣旨からすると、休眠していない旨の「届出」 をしている法人に対して、さらに過料処分をかけてまで、「一般法人に関する登記」手続を求める必要はないと考えます。

 

あるいは、「届出」により、公告の執行は停止しているだけである。つまり公告そのものは生きている。言い換えればみなし解散にするよという法的事実は残存している、とでもいうのでしょうか。そして、その法的事実を消去するためには同条第1項のただし書きの「一般社団法人に関する登記」をするしかない、ということになると解すべきでしょうか。

 

 仮にそのように解釈して、法的事実は残っていたとしても、公告による解散はしていないので、法人は生きて活動し続けられます。ただし書きは解散の対象となった法人の側に「一般社団法人に関する登記」をする権利は認めていますが、登記の義務を命じていないので、あえて登記料を支払ってまで登記しないと考えても法律上問題はありません。(登記官としては腹が立つでしょうが。)

 

 さらに、通知書の1行目には、「公告から2箇月以内に役員変更等の登記をしていない場合は、『まだ休眠していない』旨の届出をする必要があります」と2箇月が「登記」にかかる言葉なのか、「届出」にかかるのか、非常に曖昧に記載されています。

 しかし、第149条の条文では、「法務大臣が休眠一般社団法人に対し2箇月以内に(所轄登記所に)事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、届出をしないときは、その2箇月の期間満了の時に、解散したものとみなす。」と規定し、2箇月以内は「届出」にかかる言葉となっています。

 役員変更登記があたかも2箇月以内に行わなければならないかのような誤解を与える文章となっています。ただし書きの文面をここに滑り込ませるという、狡猾な手法を用いています。

 本当に、国民を馬鹿にしているのではないかと、勘ぐります。

 

 この「法律」には、登記官に安衛法第91条の労働基準監督官の権限のような権限を与えた規定はどこにもないので、登記官が一般社団法人に対して「登記を命ずる」ということはできない構造になっています。そして過料の決め方も、登記官が命じたことに反して実施しなかった、ということではなく、必要な登記をしなかった、虚偽の登記を行った、というような過料に処せられる者があることを業務上知ったときは、遅滞なく地方裁判所に通知するという方法しかありません(商業登記規則第118条)。また法人そのものは通知の対象となっていません。

 

 それにしても、「一般社団法人に関する登記」や「必要な登記」とは何かを具体的に説明していないので、「法律」だけでなく通知文そのものも、非常に不親切な文書であるということができます。

 

 

6.私の意見書では何を問題としたか

 

 基本は異議申立に記載した事項以外に、さらに主張することがあれば記載するもので、裁判官が審尋を行うにあたって参考にするものを書きました。

 3月11日の異議申立書では「みなし解散法人」の規定は、単に休眠法人は解散したものと見なす、と記載されており、この規定を過料の根拠にするのは罪刑法定主義に反するということを主に主張しました。

 今回の意見書は、主に「必要な登記」申請とは何かを過料決定書の「理由」や「過料決定についてのお知らせ」に記載されている文面から推察して、それについて反論したわけです。

 

 文面とは、「上記の者は、上記法人の代表理事に就任していたところ、役員が退任し、法定の員数を欠くに至ったのに、令和元年12月10日までその選任手続を怠った。」というものと、「法律」では「役員の任期は2年」であり終了する。そのため重任でも休業中でも新たな役員を選任しなければならない。その場合、登記事項に変動があったのだから2週間以内に変更登記をする義務があるのにこれを怠ったの二つです。

 

 意見書を書くに当たって、調べたら、これは「重任登記」という問題だということが分かってきました。重任登記とは、役員の任期が法定で2年と定められている。従って、任期終了すれば法的には解任され員数はゼロとなる。一旦ゼロとなったので同一人が再任されたとしても法律的には新たに選任されたこととなり、それは登記事項の氏名の変更となるので「変更登記」する必要がある。これを一般的に?「重任登記」といい、明治時代から認められてきた、というものです。重任登記がなされない以上、役員の員数は欠員のままとなる、という考え方です。

 

 このお上の考え方に、分かりましたと思い、素直に従えば良いのでしょうが、私は元来、天邪鬼(あまのじゃく)なので、これについて噛みつきました。

 

 

7.重任登記の違法性について

 

 紙数も4頁になりましたので簡単に述べます。

 任期満了=解任により員数がゼロになるという考え方は、国が理事等の役員を一旦死亡扱いにしている、ということになります。定款上、正常に定時社員総会で次期社員総会終結時まで任期を延長したにも係わらず、その事実を認めず、認めるためには氏名を変更したとみなして、変更登記をしなければ、役員は欠員のままとするというのでは、商取引をする相手も不安となります。

 

そもそも登記制度とは何のためにあるのでしょうか。有斐閣の新版法律用語辞典には次のように書かれています。登記とは、「一定の事項を広く社会に公示するため公開された公募に記載すること。取引関係に入る第三者に対してその権利の内容を明らかにし、不測の損害をこうむらせないようにする制度で、取引の安全を保護する上に重要な機能を果たす。」

大事なのは、商取引の安全の保護、安定を図るために、それを公的に確認保証する制度なのです。

 正当(正式に)に再任された理事を死人として扱い、それで不都合なら「法律」第75条で死人である理事が引き続き前任者の権利義務を有する、で乗り切れば、商行為の安全は図られる、と登記官は主張するかもしれません。しかし、商行為の安定、安全を望む法務行政(国)自身が無理矢理役員を死亡扱いし、商取引行為の法的安定性を壊し、曖昧なものにしようとするのは問題です。

 

論破する項目はいろいろありましたが一番の論点は、理事の任期は2年以内に開催される定時社員総会「終結」のときまで、という条文をどう解釈するかだと思いました。

 一般に会議が行われ物事を決めるに当たって、その会議が終了してから決めることはありませんね。役員の選任も、定時社員総会の「終結前」に、言い換えれば役員の任期の終了が到来する前に、その役員の任期は次期社員総会の時までと議決すれば、任期は終了することなく延長するはずです。

 この理論では、任期終了⇒辞任(死亡)⇒再任(生き返る)とはなりません。任期終了の時期が延長されたとなります。つまり一旦死人とはなりません。だから同じ人が再任されても任期の延長ですから改めて役員氏名変更に伴う変更登記は必要がない、というのが私の論理です。

 意見書では、この理論を補強するためにいくつかの例とか、条文そのものの未熟で曖昧な点とか休眠社団法人を生じさせないための法改正の必要性について述べました。

 

 コロナウイルス禍で外出を自粛しているので、ネットで資料を集めゆっくり勉強できました。もし過料決定の異議申立が否認されれば、控訴を考えています。事実ではなく法律の解釈の問題なので、最高裁まで争うことになるかもしれません。

 暇は十分ありますので、体力が続く限り、徹底的にやりたいと思っています。

 

 最後に、(一社)白﨑労務安全メンタル管理センターは、コロナウイルス禍で2月から当面5月まで、講演、講義、研修等がすべてキャンセルとなったこともあり、2019年度は大赤字決算、20年度も赤字が増大することが予想されますので、3月24日に解散の登記を行いました。

 長い間のご愛顧を感謝しお礼申し上げます。

 今後は、法人ではなく個人事業主フリーランサー)として講演、研修等を行いますので、引き続きよろしくお引き立てのほどお願い致します。また書籍の出版も予定しており(「なるほど、そうだったのか安衛法」(仮題)出版社は未定)、現在その準備の執筆活動は続けています。

 それでは新型コロナウイルスに罹患しないよう、十分に正しく怖れて対策を十分にしていきましょう。

 

2020年4月18日

                白﨑淳一郎 の Blog

3万円支払え。過料の決定通知にビックリ

 

  3月5日(木)夕方、外出先から帰宅しました。玄関先の郵便箱に新聞の夕刊紙と一緒に普通郵便で、○○地方裁判所△△支部からの手紙が入っていました。さっそく中味を確認すると「過料決定」という書類が入っていました。寝耳に水の仕打ちです。

 2月26日付けで裁判官××の名前で3万円を支払えという重要な内容のものでした。しかも、本書面が到達してから1週間以内に書面で異議申立ができるとも記載しています。

 

 ここでまず問題なのは、このように重要な書面をなぜ配達証明とか書留にしなかったか、ということです。裁判所は2月26日(水)に決定しているのですが、私に配達されたのは3月5日です。同じ市内なのにどういう郵便事情か分かりませんが決定から1週間もかかって配達されています。しかも玄関先の誰でも抜き取ることが出来る郵便箱に入れてありました。ダイレクトメールや広告のチラシと同様に、廃棄されたり盗まれたりする可能性もあります。雨で濡れて毀損し読めなくなるおそれもあります。

 しかも書面が到達してから1週間以内と裁判所は言いますが、何時配達されたのか、本当に配達されたのか、裁判所はどうして分かるのでしょうか。日本の郵便事情は概ね健全だとは思われますが、普通郵便はパーフェクトではありません。未到達の期限の喪失というリスクをなぜ国民の側が負わなくてはならないのでしょうか。これは後述するように法務局も同じです。お上意識丸出しだと思います。

 

 次に、私はこの決定については1週間以内に「異議申立」をしようと考えています。理由は3つほどあるからです。

 

理由を述べる前に、過料とは何かの説明をします。

 ウィキペディアによると、「過料(かりょう)とは、日本において金銭を徴収する制裁の一つ。金銭罰ではあるが、罰金や科料と異なり、刑罰ではない。特に刑罰である科料と同じく「かりょう」と同音発音するので、同音異義語で混同しないよう、過料を「あやまちりょう」、科料を「とがりょう」と呼んで区別することがある。」刑罰でないので、刑事訴訟法や刑法総則は適用されず、非訴事件手続法が適用されます。しかし自己の財産に影響があるので過料とするにも法的には厳格な手続や法令の適用が必要になるのは当然です。次に、決定書の中味を紹介します。

 

過料の決定の内容

「主文:上記の者を過料金30,000円に処する。

    本件手続費用は、同人の負担とする。

 理由:上記の者は、上記法人の代表理事に就任していたところ、役員が退任し、法定の員数を欠くに至ったのに、令和元年12月10日までに選任手続を怠った。

 適条:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第149条第1項、203条第1項、非訴事件手続法第120条、第122条」

 

異議申立の理由(私の言い分)

① 過料とするには過料の根拠条文である、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法律」という。)第第342条の(過料に処すべき行為)に該当する行為でなければならないはずです。しかし同条には決定書の適条と記載されている、法律第149条第1項の記載はないのです。(第203条は一般財団法人なのでもともと関係ない。)
 
 私も長いこと労働基準監督官として、労働基準法違反、労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)違反事件等で検察庁に送致手続をしてきましたが、その場合は例えば安衛法の罰則である第119条第1項第1号とまず記載し、次にその中で規定されている安衛法第20条。労働安全衛生規則第××条と罰則の適用する条項を順次指定しています。罰則に規定されていない条項で処罰することは出来ません。それが日本国憲法第31条、第39条の求める罪刑法定主義なのです。

  言い換えれば、過料の根拠規定に基づかない法律第149条第1項を適用して過料とするのは、罪刑法定主義に反し誤り、憲法違反である、と主張できます。

 

② 次に法律第149条第1項にはどのように規定しているのでしょうか。

法律の見出しは(休眠一般社団法人のみなし解散)とあります。

内容は、休眠一般社団法人は、法務大臣が当該法人に対し2箇月以内に法務省令で定めるところにより、所轄登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、その2箇月の期間満了の時に、解散したものとみなす。ただし、当該機関に登記がされた場合はこの限りではない、と規定しています。

  ようするに、事業を廃止していない場合は法務大臣が公告したときに、廃止していない旨の届出をしない場合は2箇月で解散したものとみなす、という単なる見なし規定なのです。みなすことができるのは法務大臣であるということを規定しているだけです。 

 言い換えれば私に登記の作為義務を負わせている規定ではないのです。もし届出をしなければ解散したものとみなすという不利益が生じますよ、といっているに過ぎません。従って、この条文の文面からは登記する義務を導き出せないといことになります。単に不利益があるから覚悟しろという間接強制の条文なのです。(他の条文には変更登記の義務を求めるような、それらしい事が規定されてるものもありますが、ここでは当面「適条」に限って問題にしています。)

 

③ 法律第149条第1項には規定されていないことを「理由」として述べている。

  条文の趣旨は前述したとおりですが、決定書の「理由」には法律第149条の条文には全く規定されていない、「役員が退任し、法定の員数を欠くに至ったのに、令和元年12月10日までに選任手続を怠った」と選任手続を求める文面となっています。これは法律の拡大解釈というか読み間違いです。

  しかも、私の一般社団法人は私1人が理事であり、死亡もしていなければ、海外に逃亡もしていません。勝手に退任したとか、員数を欠くと認定するのは同条文からは逸脱した読み方でありどうやっても文面上そのように読めません。単なる見なし規定から役員の退任、員数の不足の認定と選任手続を求めるのは、拡大解釈としか言いようがありません。

  さらに言えば、昨年9月か10月頃に、さいたま地方法務局から「休眠していませんか」という問い合わせの紹介が「普通郵便」で行われたと記憶していますが、「休眠していません」との返事を文書で回答しています。これは第149条にいう、「廃止していない旨の届け出」に該当すると考えられます。なぜなら法文上は「届け出」であって「登記」とはなっていないからです。しかも問い合わせには「12月10日までに選任手続=変更登記をするようにとの文言はなかったはずです。

  他人の権利や財産権に影響を及ぼすおそれのある文書は、普通郵便ではなく内容証明郵便等証拠が残る方法によるべきです。今や「オイ、コラ」のお上的な発想ではない民主主義、国民主権の国家であるということを肝に銘じるべきです。

 

  まだまだ反論することがありますが長くなるので、それは正式に「異議申立」を行ってからと思い今回のブログでは割愛します。

 

  異議申立がプロ中のプロの裁判官相手となります。一体どうなるか私にも分かりません。そもそもこの決定書が「公文書」の体をなしているのか、決定書に同封されている「過料決定についてのお知らせ」にも適用条文の誤りが認められますし、またなぜ2年で理事の任期が法定で定められているのか。その法益はなんなのかも含めて、多いに勉強していきたいと考えています。

  なお厚労省のホームページでは法令の解釈例規(通達)が簡単に閲覧できるのですが、法務省のホームページではどうやっても解釈例規が検索できません。法令の解釈を検索する方法があれば、教えていただけると、大変助かります。誰かお願いします。

 

  異議申立の顛末はまた後日報告します。

 

2020年3月8日  白﨑淳一郎のblog

新型コロナウイルス対策について(不安を軽減するために)

新型コロナウイルス対策について(不安を軽減するため)

 

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大で多くの国民が不安を感じています。不安というのは一人ひとり感じ方や強度が異なりますが不安の強度が増すと恐怖を感じます。安全、安心、不安について、私の著書である「JISQ45001JISQ45100対応マニュアル」(以下「対応マニュアル」という。労働調査会発行)の第7章「危険性又は有害性等の調査の方法」の(5)「安全・安心、危険・恐怖について」の項(206頁)をで次のように述べています。

 

マズローの欲求5段階説では、第2段階の「安全の欲求」は苦痛、恐怖、不安、危険を避け て安心・依存度を求める欲求であり、この安全欲求は安心のことである。しかし、安全を確保しても、必ずしも安心が得られるわけではない、との説明がある。

前述したとおり、安全も危険(リスク)も確率論であり、正確に確率できるかは別として、 一応客観的に判断しうる。つまり評価ができる。一方、安心も不安も恐怖も心の中に生ずる現象で、人それぞれ感じ方が違う主観的なものである。つまり評価ができない。 確かにマズローの言うことも一理あるし、「安全なくして安心なし」という言葉もあるが、 安全であっても不安・恐怖を感じる場合もある(例、閉所恐怖症、高所恐怖症、バンジージャ ンプ、風評被害など)。逆に、実際は危険であっても安心感がある場合もある(例、喫煙、飲酒、 薬物依存、高名な医師による難度の高い手術など)。

また、安心と不安は知識量と非線形(注)の関係にあるといわれている。何も知らなければ不安を感じることはまずないが、何か少しでも知識や情報が入ると不安は急速に増すのが一般的である。

 いわゆる恐怖や不安の概念は、知識の量を上げていくと不安が高まり、あるピーク(恐怖)を超えると不安感は下がっていく。しかし、パーフェクトに知識量を高めることはできないので完全に「不安ゼロ=安心」とはならない。例えば、福島第1原発事故で汚染された地域が除染され避難解除となり、人間が通常の生活ができるようになったとする。勉強して放射線の知識が高まり安全だと理解して帰宅したとしても、不安はなくならない。逆に放射線についての知識が少なければ不安のままで帰宅しない、ということになる。

 一般には産業安全衛生活動において、安心、不安、恐怖という概念を持ち込むのは客観的でなく、できるだけ確率、統計を用いたリスクアセスメントの手法を取り入れた安全対策=危険防止対策(リスク低減措置)を行うべきである。 ただし、不安は安全活動には有意義なものでもある。「臆病者と言われる勇気を持て」とは JALの松尾(初代)社長の言葉である。「臆病者と言わない社風をつくれ」はカンタス航空の社是である。危険予知も、リスクアセスメントも不安(危険感受性)を大切にし重視する活動でもある。従業員や部下に不安を与えないよう安全衛生管理活動に力を入れるとともに、「リスクは必ずある」、「事故は起こるかもしれない」という意識を植え付けるために普段から安全衛生教育を行う必要がある。

(注)非線形:直線ではないこと。曲線、放物線、波線等いろいろある。』

 

 この「対応マニュアル」は、労働安全衛生法第60条、労働安全衛生規則第40条に基づく職長教育を行う講師(トレーナー)のためのサブテキスト(副読本)の位置づけであるので、あまり詳しく丁寧には記載されていませんが、概ね安全・安心等の概念を説明しています。しかし読み返してみると若干舌足らずで不十分なところがあります。それは、文中のゴチック体の部分です。

 

 確かに、何も知らなければ不安を感じませんし、多少の知識が入ると不安は急速に高まりますが、それだけではありません。知識を得たいと思っても情報が少ない場合や、情報にフェイク(嘘)が混じり、何が本当か否かが分かりにくいときに不安を感じます。また、自分が想定(期待)していることに反する事態が生じたり、生じるおそれがあるときも不安を感じます。

 例えば今回の新型コロナウイルス感染症対策をみても、感染症の感染力(飛沫感染接触感染、エアロゾル感染であり空気感染はしないと思われる)や重篤度(危険性)は高齢者や有基礎疾患者にとってよりリスクが高い、等々の情報は分かっているのですが、現段階で有効なワクチンが未開発、有効な治療方法や薬もない。どこに感染者がいるのか分からない、感染者か否かのPCR判定を簡単にしてくれない。一旦陰性と判断されても再度陽性となることもある(抗体ができにくい?)。マスクや消毒薬等が手に入らない、満員電車に乗らざるを得ない。デスクワークでないのでテレワークも難しい等々の様々な要因が不安を高めています。PCR検査結果を示さないと簡単に会社や学校等を休めない、であるのに検査してくれない。ということ等が程度の差がありますが多くの国民に不安を与えています。

 

 それにしても政府、厚労省、保健所の対応のまずさは国民の不安感をより高めています。例えばPCRの検査ですが、基本的にはDNA(遺伝子)検査の一つであり、コロナウイルスのDNA情報(公開されている)とコロナウイルスの遺伝子が増える際に光を放つ検査試薬(プローブ)があれば、多くの民間のDNA検査機関でも検査ができるのです。

 DNA検査は、大学病院だけではありません。理学部や工学部に検査機械を設置している大学もあります。各都道府県にある科学捜査研究所(科捜研)も当然行えます。日本にある民間の検査機関も含めれば、検体の検査処理件数はおそらく韓国の比ではないと思われます。

 厚労働大臣は誰の進言を聞いているのか分かりませんが、民間の検査機関について信用していないためか、その利用をあまり前向きに考えていないようです。

 しかし、医師が検査が必要だと判断したら容易に検査できる体制をすぐ整えるべきです。但し現在は検査費用は全額国庫負担であるので国も躊躇していると思われます。健康保険適用で1~3割の本人負担を求めても、多くの国民は納得すると思われます。なお、健康保険未加入者や検査費用を支払うことが困難な貧困者、外国人等には別途支援・補助対応をすべきです。でないと、場合によってはこれらの人達が感染を広げることも予想されるからです。

 

 なお、2月26日の朝日新聞デジタルでは「新しい検査機器は、産業技術総合研究所が開発した遺伝物質の増幅を早める技術を使い、検体の処理を含めて約30分で結果が出せるという。持ち運べる大きさで、最大4人分を同時に検査できる。価格は1台数百万円という。」という記事を配信しています。人の命は地球より重いのです。国は補正予算を使ってでもこの検査機の増産、政府としての購入、検査機関への無料貸し出し・配布を行い、検査体制の充実を図るべきです。(なお、2月27日のTBSの昼オビで田崎コメンテーターが「この検査機械は外国のものですぐに輸入できない」旨の発言をしていましたが、産業技術総合研究所経産省関連の独立行政法人で、つくば市にあります。フェイク発言は厳に慎むべきです。)

 

 陰性であることが早期に分かることで、「安心」します。逆に陽性なら、他人に感染させないよう今以上に行動に慎重になるでしょう。陽性と判定されたら会社も学校も気兼ねなく休めます。政府は国民を不安から少しでも解放するよう全力を挙げるべきです。

 ここで私の「対応マニュアル」の補強を行います。同マニュアルでは、「あるピーク(恐怖)超えると不安感は下がっていく。」と述べていますが、不安感を軽減させるためには、前述したとおり、正確な情報、合理的で納得できる情報をいかにたくさん得るかにかかっているかによります。フェイクニュースは徹底して押さえ込み、否定する広報も行う必要があります。

 

 次に2月25日に発表された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(以下「基本対策」という)について述べます。同基本対策では小規模患者クラスター(集団)という言葉を使用しています。もともとクラスター(cluster)は、花やブドウなどの房の意味です。肺炎を起こすのは小さな肺胞が感染症で破壊され肺呼吸が困難になる病気ですが、これも1個の肺胞ではなくいくつかの肺胞の集団(クラスター)で起こる症状です。

 クラスターといえばクラスター爆弾が思い出されます。大きな爆弾の中に小さな子爆弾を詰め込み、親爆弾の破裂で子爆弾が広範囲に飛び散るというものです。クラスター爆弾に遅発地雷等を組み込むことと不発弾が多いことから、戦争や紛争が終わっても子供達に甚大な被害を与えます。ために、あまりにも非人道的だということで2008年に使用禁止条約が採択されましたが、日本は米国と同様批准していません。

そういう状況であることを政府は十分に承知の上で、小規模集団感染という単語ではなくクラスターという単語をあえて使用しているのは、言外に多大なる被害を想定しているのかと勘ぐりたくなります。

 

 それから、基本対策では、早期に発見し早期に対策を講じるというのではなく、軽症者は基本的に自宅待機が原則。重症者に対してのみ対応策を図る、というものと思われます。その徹底のため、現行では「感染症法に基づく医師の届出により疑似症患者を把握し、医師が必要と認めるPCR検査を実施する。」となっています。しかし実態はほとんどこのとおり実施されていません。にも関わらず、今後は「まずは、帰国者・接触者相談センターに連絡いただき、新型コロナウイルス感染を疑う場合は、感染状況の正確な把握、感染拡大防止の観点から同センターから帰国者・接触者外来に誘導する。」そして「帰国者・接触者外来で新型コロナウイルス感染症を疑う場合、疑似症患者として感染症法に基づく届出を行うとともにPCR検査を実施する。必要に応じて、感染症法に基づく入院措置を行う。」

 つまりPCR検査に至るハードルが上げられて、医師の判断ではなくセンターという入口で軽症者は検査のチャンスがふるい落とされ、再度帰国者・接触者外来でも篩にかける、というシステムにする、ということです。

 これでは、ふるい落とされた人やその周りの人はさらなる不安を感じざるを得ないでしょう。もしパンデミック(大流行)に近づいたら、不安が恐怖に変わりパニックや暴動を起こすかもしれません。


 一番大事なのは、疾病対策の基本である「早期発見、早期治療」の原則に戻るべきです。政府は検査のためのハードルを上げるのではなく、医師の判断で必要と考えるなら直接検査機関にPCR検査を依頼できるようにし、まずは患者さんの不安を解消することに最大限の力を注ぐべきです。軽症者や未発症者からの意図しない感染をまず防ぐことです。それが感染拡大を阻止する基本です。


 また、アビガンやレムデシビルの治験を行い始めたとの情報がありますが、緊急事態ですので、重症者だけでなく軽症者にも、そして治験実施機関も限られた機関だけではなく全ての医学部、医大等で広範囲に行い、その途中経過も含めデータを公開すべきです。市中の医師は治療のための情報をのどから手が出るほど欲しがっています。

 

 次に高齢者や有基礎疾患者等重篤な障害を起こすリスクの高い人、すでに重篤な状況となっている人に、十分な検査、診療、治療体制を早期に充実させるのです。新型コロナウイルス感染症は空気感染しないようなので、必ずしも陰圧の感染症対策の病室に入れる必要はないとされています。

 昨今の医療改革(改悪?)で一般病院のベットの空き数が増加しています。必要なら、病院を借り上げて、感染者を隔離し集中して入院・治療を行う権限を知事あるいは政令都市の首長に与える政令を出すことも検討すべきです。

 大事なことは、これらの対策、方針を広報し、自分の症状からどうすれば十分に対応してもらえるかをしっかりPRすることが安心につながりパニックを起こさせない秘訣です。その意味でこの政府の基本方針は安心を与えない不十分なものということができます。 

 

 2月25日の報道で、全国知事会の代表が、PCRの検査や個人情報の発表等を含め各県の対応がバラバラだ。政府として統一的な対応基準を示して欲しい、との要望を行ったということです。国としての一定の基準が示されることはそれに越したことはありませんが、知事も自分の都道府県の住民に対して、その命と健康、安全を確保する義務があります。

 日本人は、とかく「上から指示されていませんので」とか「基準には該当しないので」と、実施しないことの理由に、上からの指示、基準を持ち出しがちです。

 各首長や知事は、国からの指示や基準はあくまでも原則、最低基準と割り切って、もっと改善の余地はないか、これで患者さん(住民)に満足させられるか、満足までとは言わないが不安を解消できるか、安全を保てるか、感染を防ぐことができるのか、という観点に立って、より高い判断、決断をしていただきたいと思います。それが真のリーダーシップです。
 また、交通機関や多くの人が利用し、集まる機関や組織(会社を含む)のリーダーも、お客様、社員等ステークホルダーにとってどうしたら安全、安心を与えるのか、政府だけに頼らず自らリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
      2020年2月27日  白崎淳一郎のBlog