重任登記に異議あり

      今度は「審尋」を行うから、意見があれば述べよ、との連絡が

 

 

 前回(2020.3.8)「3万円支払え。過料の決定通知にビックリ」というブログを書きましたが、そのブログではこの過料決定に対して「異議申立」を行う予定です、と記載しました。

 異議申立は3月11日に行い、無事受理されました。そのとき私は、こういう異議申立はしっかりと審査されるのですかと聞いたところ、受け付けた事務官の人が、異議申立は受理されても、この種の事案は多くの場合は申立が却下(訴えの内容を審査せず門前払いすること)されることが多いようですよ、と話していました。

「審尋」の通知が来て、門前払いをされなくてホッとしました。

 

 

1.審尋するから意見書の提出を求められた

 

 そもそも、この過料決定の発端となったのは、平成26年から始まった法務行政の「休眠法人整理作業」大作戦だと思われます。株式会社は12年間で休眠法人となります。一般社団法人の場合は5年です。これら休眠法人をリストアップし、登記官が裁判所に過料案件として通知するそうです。裁判所は非訴事件として当事者の意見を聴かずに、過料についての決定をすることができます。

 しかし過料の決定に不服がある場合は異議申立をすることができます。異議申立があれば、遡って過料はその効力を失います。また適法な異議申立てがあったときは、裁判官は当事者の陳述を聴いて、更に過料についての裁判を行わなければならないとされています。この裁判は裁判官の面前で行うのではなく(公開の法廷は開かれません)、当事者の意見を書面だけで審査します。これを審尋といいます。

 裁判所から、審尋書が送付され、異議申立書にプラスして意見や証拠等があれば4月13日までに「意見書」として提出することが求められました。私の行った異議申立は適法なものだったわけです。

 いよいよ、非公開ですが本格的な裁判が始まります。コロナウイルス禍もあり、暇をもてあましている老人(誠にすみません)にとって、これほど楽しい「頭の体操」はないと思っています。久しぶりに法学部の学生に戻った(若返った)気がします。

 なお、4月13日に、A4で16枚の「意見書」を提出し、これも無事受け取ってもらいました。

 

 

2.休眠法人制度とはなにか

 

 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法律」という。)第149条に、登記が最後にあった日から5年経過したものを休眠社団法人と定義し、法務大臣が当該法人に対して2箇月以内に登記所に事業を廃止していない旨を届出をしない場合は、当該法人を解散したものとみなしその旨を公告する、という制度です。

 この制度は、5年間も変更登記をしていないことは「登記懈怠」として許されない、ということで「過料」にすべしと登記官が裁判所に通知しているのだそうです。

 確かに、本当に(実際に)休眠した法人の場合は、ネットで調べると分かりますが「休眠法人の売買」あるいは「休眠法人の乗っ取り」などが行われ、詐欺等の不正行為の温床ともなるので、法務行政としては避けたい、という気持は分からないでもありません。私もある意味では必要な制度だと思います。

 

 

3.「法律」第149条は条文としての立て付けが悪い

 

 休眠法人とみなされて解散させられるのを避けるには、前述のとおり、「休眠法人でない旨」の「届出」を、通知があって2箇月以内に法務局に行わなければなりません。ここで重要なことは「登記」ではなく「届出」となっていることに注意すべきなのです。

 しかも、この「届出」をすれば、何年間「休眠法人でない」という効果が存続するのか、は規定上明記されていません。

 もし2箇月以内に「届出」をしないと、法務大臣により解散のしたものとみなされ、法人解散の公告がなされます。同条には、ただし書きで、「一般社団法人に関する登記」がなされたときは、この解散の公告はこの限りでない、つまり解散の公告はなかったものとして取り扱う、と規定しています。

 このただし書きに記載されている「一般社団法人に関する登記」というものが条文を読むだけではどういうものか全く分かりませんが、過料の通知が来てからいろいろ調べたら、いわゆる「重任登記」のことらしい、ということが分かりました。

 つまり「一般社団法人に関する登記」=「重任登記」をすれば、休眠法人ではなくなるので、解散は免れる、という規定となっています。しかし、ただし書きは登記した場合は解散を免れるとだけ規定しているので、登記する義務を命じてはいません。あくまでも解散が嫌と考える側がするものであり、国から強制されて行うものではありません。

 義務規定ではないので、この「一般社団法人に関する登記」をしなくても、過料という処罰は受ける筋合いのものではありません。勿論、過料の根拠規定にこの休眠による見なし解散の規定は記載されていません。見なし解散するのは法務大臣ですから当然ですよね。

 また、「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしなくても条文上は「届出」があれば、解散を命じることはできません。登記官としては、本当は「届出」ではなく「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしてもらいたいのですが、法文上それを求める規定とはなっていないのです。

 でも、どうやら登記官はこの「一般社団法人に関する登記=重任登記」をしないことに腹を立てて、無理筋の過料の請求を行った模様です。お上意識、丸出しですね。

 

 

4.「届出」の通知書の内容(法務省HPのリーフレットより)

 

 もう少し、休眠していない旨の「届出」の流れを説明します。1に記載している「休眠法人整理」大作戦では、登記官は「法律」第149条第1項の「届出」と同項に基づく「法律」施行規則第57条に記載している「通知書」を、登記手続を5年以上行っていない休眠法人に郵送します。

 

 通知書の内容は法務省のホームページで見ることができますが、次のような内容です。

 

 『まだ事業者を廃止していない」旨の届出について』

  まだ事業を廃止していない休眠会社又は休眠一般法人は、公告から2箇月以内に

  役員変更等の登記をしない場合は、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をす 

 る必要があります。

  届出は、登記所からの通知書を利用して、所定の事項を記載し、登記所に郵送又は

  持参して下さい。

  通知書を利用しない場合には、書面に次の事項を記載し、登記所に提出済みの代表

  者印を押印して、提出して下さい。

  また、代理人によって届出をするときは、委任状を添付して下さい。

  なお、「まだ事業を廃止していない」旨の届出をした場合であっても、必要な登記

  申請を行わない限り、翌年も休眠会社・休眠一般法人の整理作業」の対象となり

  ますの御注意下さい。

 

        【届出書に記載すべき事項】

会社法施行規則第139条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則第57条又は第65条))

(1)商号、本店並びに代表者の氏名及び住所(休眠会社の場合)

  名称、主たる事務所並びに代表者の氏名及び住所(休眠一般法人の場合)

(2)代理人によって届出をするときは、その氏名及び住所

(3)まだ事業を廃止していない旨

(4)届出の年月日

(5)登記所の表示

※ 不備があると、適式な届出として認められないことがありますので、正確に記載して下さい。

(アンダーラインは筆者)

 

 以上のような通知書が、一昨年と昨年に送られてきたと思いますが、コピーをしないまま返送してしまったので正確な記載内容は覚えていません。が、おそらくこのような内容でした。

 

 毎年確実に税務署、県税事務所、市役所に貸借対称表や損益計算書等を添付して法人税を納め、代表理事等の変更もなく(私のところでは毎年5月にリビングで定時社員総会を行って任期の延長を行っていた)、多少赤字傾向でも何とか正常に事業を継続してきた事業者にとって、突然この通知書を受け取ったとき、どう思うでしょうか。

 事業を廃止していませんか?と急に言われたのですから、一にも二にも無く、この「事業を廃止していない旨の届出」を出すと思いませんか。届出をしたときには、これで一安心、と思うのが普通です。

 

 通知文の「なお書き」に「必要な登記申請」を行わない限り、翌年もまたこの通知書が来るとの記載がありますが、ここに記載されている「必要な登記申請」というものが具体的に示されていないので何のことを言っているか分からない、自社には関係ないとしてスルーしてしまうのではと思います。

 私も、私の会社(法人)の登記事項に変更はありませんでしたので、このなお書きについては気にも留めていませんでした。

 

 

5.通知書の問題点

 

 通知書は「法律」施行規則第57条によるものとしていますが、通知文の「なお書き」のアンダーラインの部分は同条には一切記載がありません。何を根拠にこのなお書きが記載されているか分かりません。出所不詳の文書なのですが、重要なことは翌年も「休眠法人整理」の対象となる、と記載しているだけで、何時までに「必要な登記申請」をしなさい、とか登記しなければ処罰(過料)の対象となる、とは記載していないということです。でも実際には2回目の「届出」を行った後に過料処分の通知がなされたのです。

 

 このことに関して、「法律」第149条には、届出をしても翌年又届出をしなければならない旨の規定がないということです。言い換えれば届出の有効期間が規定されていません。だから、届出をしさえすれば、法務大臣の見なし解散の公告の執行は停止されることは分かりますが、どれくらいその効力があるのか、法文上は分かりません。

 「休眠法人整理」大作戦は、真に休眠している法人を法務大臣の権限で解散にする制度です。休眠していなければ整理する必要はありません。だから「届出」で休眠していないか、しているかを確認し、真に休眠している法人を粛々と整理していけば所期(整理)の目的は果たせます。

 「整理」大作戦の趣旨からすると、休眠していない旨の「届出」 をしている法人に対して、さらに過料処分をかけてまで、「一般法人に関する登記」手続を求める必要はないと考えます。

 

あるいは、「届出」により、公告の執行は停止しているだけである。つまり公告そのものは生きている。言い換えればみなし解散にするよという法的事実は残存している、とでもいうのでしょうか。そして、その法的事実を消去するためには同条第1項のただし書きの「一般社団法人に関する登記」をするしかない、ということになると解すべきでしょうか。

 

 仮にそのように解釈して、法的事実は残っていたとしても、公告による解散はしていないので、法人は生きて活動し続けられます。ただし書きは解散の対象となった法人の側に「一般社団法人に関する登記」をする権利は認めていますが、登記の義務を命じていないので、あえて登記料を支払ってまで登記しないと考えても法律上問題はありません。(登記官としては腹が立つでしょうが。)

 

 さらに、通知書の1行目には、「公告から2箇月以内に役員変更等の登記をしていない場合は、『まだ休眠していない』旨の届出をする必要があります」と2箇月が「登記」にかかる言葉なのか、「届出」にかかるのか、非常に曖昧に記載されています。

 しかし、第149条の条文では、「法務大臣が休眠一般社団法人に対し2箇月以内に(所轄登記所に)事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、届出をしないときは、その2箇月の期間満了の時に、解散したものとみなす。」と規定し、2箇月以内は「届出」にかかる言葉となっています。

 役員変更登記があたかも2箇月以内に行わなければならないかのような誤解を与える文章となっています。ただし書きの文面をここに滑り込ませるという、狡猾な手法を用いています。

 本当に、国民を馬鹿にしているのではないかと、勘ぐります。

 

 この「法律」には、登記官に安衛法第91条の労働基準監督官の権限のような権限を与えた規定はどこにもないので、登記官が一般社団法人に対して「登記を命ずる」ということはできない構造になっています。そして過料の決め方も、登記官が命じたことに反して実施しなかった、ということではなく、必要な登記をしなかった、虚偽の登記を行った、というような過料に処せられる者があることを業務上知ったときは、遅滞なく地方裁判所に通知するという方法しかありません(商業登記規則第118条)。また法人そのものは通知の対象となっていません。

 

 それにしても、「一般社団法人に関する登記」や「必要な登記」とは何かを具体的に説明していないので、「法律」だけでなく通知文そのものも、非常に不親切な文書であるということができます。

 

 

6.私の意見書では何を問題としたか

 

 基本は異議申立に記載した事項以外に、さらに主張することがあれば記載するもので、裁判官が審尋を行うにあたって参考にするものを書きました。

 3月11日の異議申立書では「みなし解散法人」の規定は、単に休眠法人は解散したものと見なす、と記載されており、この規定を過料の根拠にするのは罪刑法定主義に反するということを主に主張しました。

 今回の意見書は、主に「必要な登記」申請とは何かを過料決定書の「理由」や「過料決定についてのお知らせ」に記載されている文面から推察して、それについて反論したわけです。

 

 文面とは、「上記の者は、上記法人の代表理事に就任していたところ、役員が退任し、法定の員数を欠くに至ったのに、令和元年12月10日までその選任手続を怠った。」というものと、「法律」では「役員の任期は2年」であり終了する。そのため重任でも休業中でも新たな役員を選任しなければならない。その場合、登記事項に変動があったのだから2週間以内に変更登記をする義務があるのにこれを怠ったの二つです。

 

 意見書を書くに当たって、調べたら、これは「重任登記」という問題だということが分かってきました。重任登記とは、役員の任期が法定で2年と定められている。従って、任期終了すれば法的には解任され員数はゼロとなる。一旦ゼロとなったので同一人が再任されたとしても法律的には新たに選任されたこととなり、それは登記事項の氏名の変更となるので「変更登記」する必要がある。これを一般的に?「重任登記」といい、明治時代から認められてきた、というものです。重任登記がなされない以上、役員の員数は欠員のままとなる、という考え方です。

 

 このお上の考え方に、分かりましたと思い、素直に従えば良いのでしょうが、私は元来、天邪鬼(あまのじゃく)なので、これについて噛みつきました。

 

 

7.重任登記の違法性について

 

 紙数も4頁になりましたので簡単に述べます。

 任期満了=解任により員数がゼロになるという考え方は、国が理事等の役員を一旦死亡扱いにしている、ということになります。定款上、正常に定時社員総会で次期社員総会終結時まで任期を延長したにも係わらず、その事実を認めず、認めるためには氏名を変更したとみなして、変更登記をしなければ、役員は欠員のままとするというのでは、商取引をする相手も不安となります。

 

そもそも登記制度とは何のためにあるのでしょうか。有斐閣の新版法律用語辞典には次のように書かれています。登記とは、「一定の事項を広く社会に公示するため公開された公募に記載すること。取引関係に入る第三者に対してその権利の内容を明らかにし、不測の損害をこうむらせないようにする制度で、取引の安全を保護する上に重要な機能を果たす。」

大事なのは、商取引の安全の保護、安定を図るために、それを公的に確認保証する制度なのです。

 正当(正式に)に再任された理事を死人として扱い、それで不都合なら「法律」第75条で死人である理事が引き続き前任者の権利義務を有する、で乗り切れば、商行為の安全は図られる、と登記官は主張するかもしれません。しかし、商行為の安定、安全を望む法務行政(国)自身が無理矢理役員を死亡扱いし、商取引行為の法的安定性を壊し、曖昧なものにしようとするのは問題です。

 

論破する項目はいろいろありましたが一番の論点は、理事の任期は2年以内に開催される定時社員総会「終結」のときまで、という条文をどう解釈するかだと思いました。

 一般に会議が行われ物事を決めるに当たって、その会議が終了してから決めることはありませんね。役員の選任も、定時社員総会の「終結前」に、言い換えれば役員の任期の終了が到来する前に、その役員の任期は次期社員総会の時までと議決すれば、任期は終了することなく延長するはずです。

 この理論では、任期終了⇒辞任(死亡)⇒再任(生き返る)とはなりません。任期終了の時期が延長されたとなります。つまり一旦死人とはなりません。だから同じ人が再任されても任期の延長ですから改めて役員氏名変更に伴う変更登記は必要がない、というのが私の論理です。

 意見書では、この理論を補強するためにいくつかの例とか、条文そのものの未熟で曖昧な点とか休眠社団法人を生じさせないための法改正の必要性について述べました。

 

 コロナウイルス禍で外出を自粛しているので、ネットで資料を集めゆっくり勉強できました。もし過料決定の異議申立が否認されれば、控訴を考えています。事実ではなく法律の解釈の問題なので、最高裁まで争うことになるかもしれません。

 暇は十分ありますので、体力が続く限り、徹底的にやりたいと思っています。

 

 最後に、(一社)白﨑労務安全メンタル管理センターは、コロナウイルス禍で2月から当面5月まで、講演、講義、研修等がすべてキャンセルとなったこともあり、2019年度は大赤字決算、20年度も赤字が増大することが予想されますので、3月24日に解散の登記を行いました。

 長い間のご愛顧を感謝しお礼申し上げます。

 今後は、法人ではなく個人事業主フリーランサー)として講演、研修等を行いますので、引き続きよろしくお引き立てのほどお願い致します。また書籍の出版も予定しており(「なるほど、そうだったのか安衛法」(仮題)出版社は未定)、現在その準備の執筆活動は続けています。

 それでは新型コロナウイルスに罹患しないよう、十分に正しく怖れて対策を十分にしていきましょう。

 

2020年4月18日

                白﨑淳一郎 の Blog