福島第1原発 トリチウム汚染水は太陽に送れ (改訂版)

 

 2019年9月29日の「福島第1原発 トリチウム汚染水は太陽に送れ」について、若干不正確な点があったので、同日のブログを削除し、あらたに改訂版として再掲載します。

 

 福島原発の汚染水の件は韓国が「海洋放出」するのは問題ではないか、と国際世論に嫌がらせ的にPR、ロビー活動しだした。これについては、まだ何も「放出」の方針を決めていないのに、韓国自身の原発も処理水でトリチウムを海洋に放出しているのに・・・という批判がある。

 

 それはさて置き、汚染タンクはあと2年もしないうちに置き場を作ることができなくなっていて、いずれにしろ汚染水の処理をしなくてはならないのは自明のことである。そこで汚染水の海洋廃棄やむなし論者は、トリチウムの危険性を払拭することに躍起となっているようである。

 

 しかしトリチウムは絶対に無害ではない。危険性が少ないとする論者でも、自分や自分の家族にそれを飲ませても構わない、と思っている人はいないのではなかろうか。

 

 ところで、トリチウムは水素分子にしっかり溶け込みそれと分離することは現代の科学技術ではかなり困難だといわれている。昨今、近畿大学工学部教授 伊原辰彦氏が「効率的に低コストで分離回収することに成功した」というニュースを2018.6.29 SankeiBiz が掲載していた。簡単にその論文を紹介すると、アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターで、毛細管現象を利用して、トリチウムを分離するものらしく、国際特許を出願中とのことである。

 

 この技術を、国内でも国際的にでも、さらに発展させることは重要であると考える。しかし、海洋廃棄やむなし論の大御所といわれる学者の一部は、『「トリチウムを分離して処理する」という処分法も公聴会では挙がりました。近畿大学の技術で、1時間あたり3.5gの処理水を分離処理できるというものです。ただこの処分法ですと、処分の速度が処理水の増加量(100-200㎥/日)を下回ってしまい、貯蔵の限界になるまでに処分が間に合わなくなるので、その点に困難があるかもしれません。』(「福島第一原発廃炉トリチウム水処分を考える」SYNDOS 2019.5.9木野正登氏 経済産業省資源エネルギー庁参事官)と述べ、否定的である。

 大規模で多数の装置を作れば3.5g/時という問題はクリアするはずである。要するに金をかけたくないという発想に立っているものと思われる。

 

 ところでトリチウムとは、日本語で「三重水素」と呼ばれる水素の仲間(同位体 アイソトープ)のことである。ちなみに水素の同位体には、質量数が1の軽水素(H)、質量数が2の重水素(D)、質量数が3のトリチウム(T)がある。重水素Dは天然に存在するが、トリチウムTは半減期が12年で、弱いβ線を出す放射性同位元素である。海洋投棄や大気中への放散やむなし派の学者は、自然界には地球に降り注ぐ宇宙線の影響等で1年間当たり約7京ベクレルのトリチウムが生成されており、水道水などを通じてトリチウムを摂取することにより、人体内にも数10ベクレルのトリチウムが存在していると述べている。これを天然トリチウムといい、極めて透過力の弱い、低エネルギーのβ線しか出さないので、かなり安全であると主張している。しかし問題なのは福島原発トリチウム汚染水の方である。これは原子力施設で生成されたものであり、天然のトリチウムとは異なる放射性同位元素である。半減期が12年とはいえ、日々生成される、γ線より危険度が高いβ線であり、その絶対量から考えても安全性は天然のトリチウムとは異なると考えて良い。

 

 話しを水の電気分解に変更する。水を電気分解すると陽極側に酸素、陰極側に水素が1対2の割合で発生し水自体は容量が減る。しかし、いくら電圧を上げ、時間をかけてもこの電気分解の反応は遅くなり、酸素と水素の発生量は当初から比べるとかなり少なくなる。というよりも一定の時間で電気分解反応は事実上停止してしまう。その時に残った水と通常の水の質量を計測したら1.106対対1.000と比重が重い水が残る。そこで普通の水を軽水(H2O)といい、比重の重い水を重水(D2O)ということにした。重水は自然界でも軽水の中に0.01%程度存在しているが、無色透明で、屈折率も等もほぼ同じで、その性質等は軽水とほとんど差が無い。

 

 しかし、今述べたように重水は電気分解をすることで生成することも出来る。そしてこの重水から取った重水素核融合の減速材として各国の原子力施設で使用されている。減速材として利用された重水は原子炉の中で中性子と衝突し三重水素、つまりトリチウムになる。福島原発の場合は流入した地下水が溶融炉心デブリ(瓦礫)冷却水とそれに含まれるホウ素等により中性子が照射されることによりトリチウムが発生するため、溶融炉心を冷却し続ける限り発生し続ける。

 

 問題はこのトリチウムが、処理水中で水分子の一部となって存在しているのである。このため、水の中にイオンの形で溶けているセシウムストロンチウムといった他の放射性物質とは異なり、トリチウムが含まれる水分子のみを「化学的な方法により分離し、除去することは容易ではない」、ということである。しかし貯蔵タンクの中にあるトリチウム汚染水の全てがトリチウムではない。濃度が高いとはいえ、その大部分は軽水であり、ただ化学的に分子として結合しているだけなのである。

 

 だから、「化学的な方法では分離、除去が容易にできない」のなら「物理的に」分離、除去できないのかということである。つまり電気分解できないか、ということである。前述したとおり、水は電気分解すれば、水素と酸素に分離できる。電気分解で容易に分離されるのは水素であり、重水素三重水素は容易に電気分解しないため、気体となって分離しにくい。仮にこの電気分解で生じた水素に重水素トリチウムが含まれたとしても、その量はごく少量であり無視して差し支えない程度と思われる。が、大気中でこのトリチウムが混じった水素ガスを利用することは、含有量が少ないとはいえ安全性を実験的に確かめてからでなければならない。このトリチウム入りの水素ガスを圧縮して液体水素にするのである。酸素分子がない分その容量はかなり小さくなる。この液体水素は後述するロケットエンジンの燃料として宇宙空間で使用する。

 

 電気分解で処理できず(反応が鈍くなったら電気分解を止める)残った水が高濃度の重水素トリチウム水であるが、酸素と水素が取り除かれている分その容積量は格段に小さくなっている。つまり現行程度のタンクの容量や基数は必要なくなる。問題は、残った高濃度のトリチウム水の処理であるが、さらに低温加圧して氷状(固形化)するか、容器に詰め替え、後述するようにロケットに載せて宇宙、特に太陽に向けて投棄するのが良いと思われる。地下に浸透させたり、深海に投棄したりすることは、漏洩等による環境汚染が考えれるので採用できない。

 

 処理方法について前記SYNDOSで 多田順一郎(NPO法人放射線安全フォーラム理事)氏は「トリチウム水を蒸発させて、大気中に放出したり、電気分解や逆浸透を多段階に繰り返したりするためには、膨大な量のエネルギーが必要です。」と否定的意見を述べている。もちろん蒸発させて大気に放出することは、農作物だけでなく人体にとってもどんな影響があるか分からないので、お金やエネルギーがあっても許されない。逆浸透も同様に許されない。また韓国政府に何を言われるか、自明のことであり反対である。

 

 ところで汚染水を貯めているタンクは1基約1億円である。現在約1千基(1千億円)あるが、もし近隣に太陽光発電所と巨大充電器をつくり、そこで発生した電気を使って1日中「電気分解」すれば、多少時間がかかるとしても、多田氏が危惧する膨大なエネルギーの問題は解消するはずである。場合によっては再稼働する原発に、再稼働の条件として、例えば発電する電力の1割をこの電気分解施設の運用のために供給すること等を政治的に(法的に)決めても良いかもしれない。あるいは、温排水を出している火力発電所からも電気を徴収することも検討すべきである。

 

 問題は、高濃度に汚染・圧縮された液体もしくは固体トリチウムをどう処分すべきかである。いつまでも貯蔵しておくのは容器の破損や電力もかかり、自然災害のことも考えなければならない。

 そこで、この高濃度のトリチウム水だけでなく、使用済み核燃料、原発汚染物質、廃炉処理で出る高濃度の汚染物質をひとまとめにして、H2Aロケットに載せ、太陽に向けて発射するのである。打ち上げ費用は現在のところ85億円と多少高いが、単に太陽に向けて打ち上げるだけで良いので、費用はもう少し削減できると思う。そして大気圏を越え宇宙空間まで運んだら、あとはわずかなトリチウム入りの水素と酸素を燃料にしてロケットエンジンを燃焼させれば良い。水星を過ぎたあたりからは、太陽の引力で太陽に引き寄せられていく。ご承知のとおり、太陽は水爆が連続的に活動している核融合の星なので、原発汚染物質も容易に受け入れてくれるはずである。

 

 現在、最終汚染物質をどうするか、その廃棄場所はどうするのか、何百年も管理できるのか、費用は誰が負担するのか等が議論されているが、結論が出そうにもない。そんなことを考えたら、ロケットでの太陽廃棄(投棄)は格段に安いと思われる。そして安全で確実、格安な打ち上げ、投棄技術が確立すれば、世界各国の原発保有国はこぞって原発汚染物質の打ち上げを依頼してくれるに違いない。原発の輸出ではなく、原発高度汚染物質の処理という新たな商売を始めるのである。

 

 私は、原発推進論者ではないが、トイレのない原発は絶対に容認できない。人類の叡智でいずれ原発の安全性は格段に高まるはずである。科学的に見てリスクが容認できるほど小さくなれば原発を認めることはやぶさかではないと考える。そのためには廃棄物の処理方法の確立が絶対に不可欠である。

 

 メインは太陽光発電で得られたエネルギーで原発から生じた放射性廃棄物等を太陽に送り込むのである。言い方が悪いが、地球や人類にとって不要なものを太陽というゴミ処理(焼却)場に運ぶのである。これこそ究極のSDGsではなかろうか。

 

 私は、原子物理の学者ではないが、電気分解した水は、水素が陰極に、酸素が陽極に溜まるということぐらいの知識は持ち合わせている。識者のご意見を賜りたい。なお、酸素は別として、大気圏飛行中にロケットエンジントリチウム入りの水素をロケットの燃料に使用することは反対であり、認められない。あくまでも宇宙空間でのみの使用とする。

 

2020.1.8

白崎淳一郎のブログ